2009年08月12日

帰る場所:椎崎夕



※完全にネタバレしてますので、未読の方、どうぞお気をつけください。


<あらすじ>
室瀬玲一は姉の形見の喫茶店を営みながら、姪・桃子を育てている。ある朝、店の前に男が行き倒れていた。男を家に上げ、介抱する玲一。その男・西崎征一は、七年前に姿を消した桃子の父を思い出させ、玲一はいい感情を抱けない。そんな折、地上げ絡みで嫌がらせを受ける玲一達のもとに、桃子の祖父の使いが現れ、桃子を引き取るといい…。


このころの花丸の作品って、こんな感じだったよね。
桜木知沙子さんの「札幌の休日」とか月村奎さんの「WISH」とか。
今のBLにくらべると随分雰囲気違うんだけど、あの頃はこういうのが大好きだった。
今読んでも、やっぱり好き。
原点なのかもしれないです。

恋愛(そしてえっち)がメインではないですよね。
”家族”の問題、ありかた、そんなのがメインで、それに恋愛がちょこっとからむ・・・。
ましてやえっちなんて、朝チュン上等って感じで。
それでも当時は、どきどきしながら買ったもんですけどね。
そんな、古き良き時代(笑)のテイスト満載の椎崎夕さんのデビュー作の文庫化作品。
これ、ホントにずっと探してたんですよ、花丸版を。
ルチルさん、ありがとう・・・。
この調子で、まだまだ眠ってる名作を掘り起こしていただけると嬉しいんですけど。

あらすじ読んで、タイトルの「帰る場所」というのが、全くピンとこなくて読み終わってはじめてああそうかって・・・。
主人公の玲一は、姉の忘れ形見の姪の桃子と二人暮らし。
この桃子の父親というのがちょっと複雑な存在で、身元不明者…になるのかな。
まだ姉との二人暮らしのころ、姉の経営する喫茶店の入り口に記憶喪失の男がひとり行き倒れていて、それを拾ってしまったことから、桃子という存在が生まれてきたわけだけど、どこのだれだかわからず当然身元を証明するものはない、当然戸籍もわからない。
だから、桃子は戸籍上父親のいない子なんですよね。
しかも、その父親は、姉も桃子も自分も捨てて、姿を消してしまった。
なんの音沙汰もないまま7年もの年月が経ち、姉は亡くなってしまったけれど、桃子はしっかりとした子に成長。
桃子の父親を待つわけではないけれど、玲一はかわらずその場所で姉の残してくれた店を守り続けてる。
そんな状況で、店の前に一人の男が行き倒れている。
しかも、記憶がないといい、身元を証明するものはなにもない。
どうしたって、あの男を思いだしてしまい、いい印象を持つことは出来ないのだけれど、どうしても放っておくことが出来ずに、家に置くことに。

玲一は、肉親の縁が薄いんですよね。
両親をなくし、姉をなくし、残されたのは桃子だけ。
だから、必要以上に桃子を大事に思ってる。
でも、玲一にとってはそれだけじゃないんですよね。
玲一は、養子として室瀬の家族になったわけで、本当のことはもうわからない。
ただ捨てられたその場所で、いつ来るともしれない迎えをずっと待っていただけの子供だった。
室瀬のおうちに引き取られなければ、もう家族なんてなかったのかもしれない。
だからこそ、桃子は唯一家族と呼べる大事な存在であり、その桃子の父親のことがどうしても許せない存在なんだと思う。
そういうこともあって、いきなり転がり込んできた、自称・西崎征一に必要以上にイヤなイメージを抱いてしまうし、警戒もする。
だから、頼ることもなければ、心開くこともない、いつか出て行く他人、それ以上にどうやってもならないようにしてる。
そんな時に、お店が地上げやに狙われ執拗な嫌がらせを受けたり、桃子の祖父だという人から、突然桃子を引き取りたいと言われたり、今まであった日常が覆るようなイレギュラーな出来事が次々と起こってしまう。
でも、全部それを自分で抱えて、自分で何とかしようって思っちゃうんですよね。
それはもう、必死すぎるほど必死に。
桃子のためにお店を残し、そのお店を譲るために桃子を守ってる。
そのためだけに生きてる感じなんですよね、玲一って。
だから、お店を奪われることも、桃子を奪われることも、全力で阻止しようとするんですよ。
そのために、自分がどうなってもいいって本気で思ってますからね、玲一。
身体差し出すくらい、どうでもいいくらいの気持ちですよね。
でも、その必死さを見れば見るほど、読んでるほうはくるしくてしょうがないです。
玲一にとって、その場所は自分の居場所じゃないって思ってるんじゃないかなって、なんか思えるんです。
新しい家族に迎えられて、その後姉と二人一緒に住んだその場所は、玲一の場所じゃないのかなって。
結局、桃子の為の場所なのかなって。
もし、なにもなかったとして、桃子に譲り渡すことができたとしたら、じゃあ玲一はどこが居場所になるんだろうって。
あんなに必死にしがみついてるくせに、自分自身にとって大切な場所って感じがしない。

地上げと桃子の肉親との問題に振り回されて、玲一は事故にあい、体の怪我も酷かったけれど心の傷が大きすぎて、玲一は全部捨ててしまうんですよね。
桃子を守れなかったこと、これが一番玲一にとって一番のダメージだったわけだけど、それくらい自分の存在価値が”桃子に姉の残した店を譲る”ことになってるのが、すごく辛かったです。
桃子も事故にあったけれど、その怪我が痛いことよりも何よりも玲一がいなくなってしまったことがショックでショックでたまらないわけです。
そのくらい、桃子に愛されてるんだけど、それが今の玲一には届かない。
届かないから、自分一人で全部抱え込んでしまう。
玲一がすべてを投げ捨ててまで行った先は、結局縁もゆかりもない場所。
はじめ、電車に飛び乗った彼が行く先は、ひょっとして、室瀬の家族と出会った北の街なのかなと、ちらっと考えたんですが、そこも彼にとっては帰る場所ではない。
だからこそ、縁もゆかりもない場所だったのかなと。
そのことが、どうして悲しかったです。
彼のまわりには、桃子をはじめ、心配してくれる人がたくさんいるのに、玲一ってどこか一線ひいてる部分がありますよね。
自分にとって大切な場所、帰りたい場所を、だれよりも求めてるはずなのに、でもそれを見つけることもだれよりも怖がってる気もします。

今月、続きの「隣に居るひと」もでますね♪
とても清い二人がどう進展するか・・・というか、この中で私にとって全くもって印象の薄い”西崎征一”がどれほどがんばってくれるか(笑)
寧ろ、享子さんのほうが、印象深いって!
彼女は、西崎の秘書・榊に口説きおとされるのかな〜。
あの二人、男女カップルでしたが、かなり好きなんですよ。
posted by 棗 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | BL(小説)>椎崎夕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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